遠慮はしない
その言葉を胸の内で反芻する。
望むところさ
指を添え、目を細める瑠駆真の傍で、蔦と涼木はクスクス笑った。美鶴はうんざりと腰に手を当てるのが精一杯だ。
「だいたいさぁ、そんなにバスケが好きなら、もっと別の学校へ行けばよかったのに」
「え?」
突然話を向けられ、蔦は一瞬面食らう。そんな彼を、美鶴がゲンナリと睨む。
どれもこれも、みんなお前のせいなんだからなっ!
そう言いた気な視線を気まずそうに避けながら、ストレッチを続ける。
「こんなんだとは、思わなかったんだよ」
「は?」
今度は美鶴が、いや美鶴以外も目を丸くする。
「こんなん?」
瑠駆真の言葉に頷く蔦。
「学校入る時は、こんな学校だとは思わなかったんだよ。親父も唐渓出てるけど、親父んときは、もっと普通の高校だったって言ってたな」
「ウチも」
涼木が口を挟む。
「ウチの親も唐渓だけど、中学の入学前に親から聞いた話と、だいぶ違う」
「ふーん」
そんな話には興味もない。昔がどうかなんて、関係ないさ。
素っ気ない美鶴の肩に、するりと聡の腕がまわる。
「そうつまらなさそうな顔すんなよ」
顔を覗き込む。
見せる笑顔はこの上なく爽やかで、小さな瞳なんかキラキラしていて、コラーユのメンバーだったら即倒すること間違いなし。
「それとも、俺と一緒に過ごす時間が少なくって、寂しいのか? ん?」
「なっ ばっ――――」
バッカじゃないっ!
そう叫ぼうとするところへ、瑠駆真の腕が―――
「はいはい。お戯れもそこまでね」
肩にまわされた腕を邪険に退けると、自分の左腕は美鶴の腰へ―――
「ちょっ…… なにするっ!」
「瑠駆真っ てめぇ! 離れろっ!」
噛み付かんばかりの聡へクルリと背を向け、美鶴を引き寄せ、右手の人差し指と中指を額へ添える。
「じゃあ僕たち、観客席で見てるから。まぁ せいぜい頑張ってぇ〜」
「てめぇっ! 美鶴に何かしたら、容赦しねぇ〜からなっっっっ!」
何かって
何かってっ
何かって、何なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
心内で叫びながら、だが結局は口をパクパクとさせるコトしかできない美鶴。
そうして聡の悪態を背で聞きながら、瑠駆真の見事な物腰になす術もないまま、最終的には強引に、部屋の外へと連れ出されてしまったのだった。
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